毎日新聞(2018年12月6日)
外国人労働者の受け入れ拡大を目的とする入管法改正案が成立すると社会はどう変わるのか。日本で長く暮らす外国人や専門家の話を聞くと、期待を抱いて来日した外国人たちの人権被害の懸念ばかりが膨らむ。 「これまでの技能実習生と言う制度の歪んだ構造が、新たな在留資格に受け継がれています。このままでは人権侵害が頻発することは目に見えている」と憤るのは、外国人実習生らを支援してきた全統一労働組合(東京都台東区」の佐々木汁を書記長。国会で安倍晋三首相は、新在留資格の本で外国人にも日本人と同等の賃金が与えられる、と答弁しているが、佐々木さんは「何の担保もない話」と厳しい口調で指摘する。「現行の実習生制度では、技能実習適正化法で日本人と同等以上の賃金を定めているのに、それが守られていない。入管法改正案にはその規定さえありません。これで、弱い立場にある外国人の待遇をどうやって保障すると言うのでしょうか」
失踪した技能実習星に対して法務省が昨年実施した聞き取り調査を野党7党派が分析、データを3日公表した。それによると、全体の約67%にあたる1939人が最低賃金未満の収入だった。全体では月給が平均十万8,000円で光熱費名目等の控除額が平均3万2,000円だったと言う。現場でも法に反した色が横行しているのに、法規制をなくしても同等賃金が保障される、などと言う説明が信じられるだろうか。
「捏造データで審議をするな!奴隷法案今すぐ廃案!」「実習制度は今すぐやめろ!答弁できない大臣やめろ!」。衆院での入管法改正案強行採決前夜の11月26日、市民約150人が国会前に集まり、講義のプラカードをあげた。
外国人に対する人権侵害は日本人一人ひとりにとっても人ごとではない。「経営者の利益と政治家の利権のために、安くて簡単に使えるもの言わな奴隷が必要と言うことでしょう。社会的弱者を作ってふんぞりかえる、底辺の人たちを固定化する法案です」。抗議集会でこう訴えたのは、労働問題に取り組む若者らの団体「AEQUITAS」(エキタス)の山本耕平さん。最低賃金の引き上げなどを求めて活動を続ける山本さんは、入管法改正案の問題点は「ブラック労働と根本的に同じ」と強調する。「外国人労働者は、奴隷でも機械の部品でもない。日本人も外国人もまともな賃金をもらって、まともな暮らしをするのが当たり前です」
国連の自由権規約委員会や人種差別撤廃委員会などが1990年代から、日本の入管施設の長期収容や難民認定申請者の扱いについて、繰り返し改善を勧告していても、政府は放置したままだ。本当に「待ったなし」で手をつけるべきなのは果たしてどちらなのか。