【 リポート 】 日本で暮らす移民の現状

安藤勇(イエズス会社会司牧センター) 【社会司牧通信154号2010年4月15日】

2006年、当時の国連事務総長コフィ・アナンは、その年の9月に国連総会で行われる、移民と開発についての「ハイレベル協議」で話し合うための、よく考え抜かれた報告を提出した。ジャパン・タイムス紙2006年6月11日号に掲載された記事で、アナン事務総長は次のように述べている。

「国境が生まれて以来、人々はそれを越えてきた-ただ、よその国を訪れるためだけでなく、そこで暮らして働くためにも。そのようにして人々は、逆境を乗り越え、よりよい暮らしをするために、たえず危険を冒してきた。

 かれらの願いは常に、人類の前進の原動力であった。歴史的に見ても、移民は彼ら自身の福利だけでなく、人類全体の福利を向上させてきた。
 このことは今も真実である。先週、私が国連総会に提出した報告の中で、概要をまとめた調査によれば、移民は-少なくとも最良のケースでは-かれら自身に利益をもたらすだけでなく、かれらを受け入れた国や、かれらを送り出した国にさえ利益をもたらす。どのようにして?
 移民受け入れ国では、移民たちは、その国の国民はやりたがらないが、暮らしには不可欠な仕事を引き受ける。かれらは、社会を成り立たせるのに必要な、多くの対人サービスを提供している。かれらは子どもや病人、高齢者の世話をし、収穫をもたらし、食べ物を準備し、家や職場を清掃する。しかも、かれらは、そうした下働きばかりしているわけではない…
そう、たしかに移民にはマイナスの面もある。皮肉なことに、その最悪の面は、移民をコントロールしようとする試みから生じるのだが。非正規・非合法の移民こそ、密入国仲介業者をはじめ、さまざまな業者から搾取される最大の犠牲者だ。そう、受け入れ国の国民と移民とが、互いに適応しあおうとする時、特に互いの信仰や生活習慣、教育レベルが違えば違うほど、緊張が生まれる。そして、たしかに貧しい国々は、その国で最も必要とされている技術を持つ者-たとえば南部アフリカ諸国の保健医療従事者-が、外国の高い給料やよりよい労働条件にひかれて「吸い上げられて」しまう時、打撃を受ける。
 だが、諸国はこうした問題に対処する方法を学びつつあり、協力して取り組み、互いの経験を学び合うなら、さらによく対処できるだろう。
 国家が存在するかぎり、移民も存在する。別のあり方を願うことはできるかもしれないが、それでも移民は厳然たる現実だ。だから、問題は移民をどのように止めるかではなく、それをよりよくコントロールすることであり、各方面がよりよく協力し、理解することだ。移民問題は「ゼロ・サム・ゲーム」(一方が勝ち他方が負けるゲーム)ではなく、すべての人に利益をもたらしうるものなのだ」

 実際、日本語でも「移民」(migrants)という言葉を使うが、日本には「移民を受け入れる」(immigrant)という概念はない。だから日本には、多くの西洋諸国にあるような移民受け入れ政策はなく、あるのは「外国人」受け入れ政策だけだ。
 共同通信の報道によれば、東京都社会福祉協議会の調査では、東京にある316の高齢者施設で働く人の90%は女性だが、316施設の30%で外国人を雇用しており、総数は196人に上る。国籍別では半分以上がフィリピン人で、中国、台湾、韓国と続く。

日本の移民政策の形成
 法務省入国管理局の「第5次出入国管理政策懇談会報告書」によれば、日本は外国から高度人材や医療・介護分野の人材受け入れを推進するという。また、日系人や研修生・実習生も引き続き受け入れるほか、留学生の受け入れも30万人に増やす予定だ。さらには、観光の促進や東アジア諸国のビジネス関係者の交流促進にも力を入れる。他方で、人口減少時代を迎えて、外国人労働力をより積極的に受け入れ、出入国管理行政全体を改善する必要がある。
 他方で、現在も13万人いる「不法」滞在者をいっそう減らす必要も指摘している。
 日本では、昨年1年間で約1,400人が難民申請したが、難民認定を受けたのはわずか30人に過ぎない。申請を行っても、認定手続きには長い時間がかかり、住宅や仕事、医療のための援助は最低限しか与えられない。

1ヶ月前の3月8日、西日本入国管理センターの外国人収容者70人以上が、一時放免を求めてハンガー・ストライキを始めた。かれらは、弁護士やボランティアなどの支援によって、難民申請を再検討されている最中なのに、センターからの放免を求める申請がなぜ断られたのか、理由を知りたがっていた。実際、少なくとも過去10年間、西日本センターでの収容者に対する虐待やひどい待遇に関する報告が、たくさん作られてきた。共同通信の調べによれば、2000~2004年の間に、西日本センターの収容者23人が自殺を図ったという。
 センターが収容者や支援者との面会に同意したという話を聞いて、収容者は11日間でハンストを中止した。入国管理局側が態度を変えて、交渉に合意した主な理由の一つは、3月16日に参議院法務委員会で、ある議員がこの問題を取り上げたことだという。加えて、ちょうど国連関係者が訪日したことも、センターが面会に同意するきっかけとなった(ジャパン・タイムス紙、2010年3月12日、22日)。
 2年前の2008年1月、入国管理センターに収容されていた東ヨーロッパ人の収容者から、私に「訪ねに来てほしい」と電話があった。彼が難民申請をしたまさにその時、入管は彼を収容したのだ。私が彼との面会を許された時、彼はハンストを始めて3週間経っていた。私は彼の放免を交渉し、幸いなことに彼は今、日本で暮らし、働いている。
 日本には東日本(茨城県牛久市)、西日本(大阪府茨木市)、大村(長崎県)の3つの入国管理センターのほか、東京入国管理局(品川)など、全国に8つの入国管理局があり、何百人という外国人が収容されている。牛久のセンターには500人以上が収容されている。牛久だけでも、何十人という難民申請中のビルマ人が、1年以上も拘禁されている。
 山村淳平医師は長年、難民から「非正規滞在者」まで、多くの外国人を治療してきた。彼は2002年から、1ヶ月に1回、牛久の東日本入国管理センターを訪ねて、収容者の精神的・肉体的状態をモニターしてきた。彼は毎月1回の訪問で7~8人、時には10人と会う。
 山村氏は入管の収容所内部の問題について発言してきた。特に、入管職員による精神的・肉体的虐待や、適切な医療処置が行われていないことなどを指摘している。彼は弁護士やアムネスティのメンバーなど5人の難民・移民支援者とともに、2007年3月に、『涙の壁-法務省「外国人収容所」の実態』(現代企画室)という本を出版した。この本の目的は、外国人収容所の実態について、一般市民に知らせることだった。
 第一章では、入管に収容されている人たちの現状を概観して、問題点を指摘している。それによると、難民であれ、「非正規」滞在者であれ、高齢者も若者も、妊娠している女性も病気の人も、出入国管理法に違反した人はみな、収容されている。幼い子どもは児童福祉施設に送られる一方で、父親と母親は別々に収容所に入れられて、家族はばらばらに引き裂かれている。  長期の収容も大きな問題だ。出入国管理法違反者に強制退去が命じられた後も、違反者は無期限に拘禁されうるのだ。収容されている人々は、将来の見通しをまったく持てない。何ヶ月も1年も、時には2年以上も収容されたあげく、やっと一時放免されたり、祖国に強制退去させられるのだ。
 政治的・宗教的迫害を恐れて祖国を脱出した人々にとって、祖国に送り返されるというプレッシャーと恐怖は非常に大きい。「祖国を逃れた亡命者にとって、退去命令は死に等しい」と、山村氏は語る(ジャパン・タイムス紙、2007年5月2日)。
 こうした現実を大部分の日本人は知らない。同じようなことは、たとえば成田空港で入国しようとする外国人にも起こる。数ヶ月前、日本人と結婚している知人のフィリピン人女性が、母親が日本に旅行しに来るために、ビザを申請した。ビザは発給されたが、母親が成田に着くと、事務所に連れて行かれた。そこには、何十人ものフィリピン人が集められて取り調べを受け、次の飛行機で送り返されていた。彼女は不運だったのだろうが、打つ手はなかった。それから数日後、ジャパン・タイムス紙でたまたま次のような記事を見た(2010年3月23日)。

「成田でのひどい扱い 

 私は日本に留学して、もうすぐ卒業する。私が日本にいる間、インドネシア人の母は何度も訪ねてきた。母は日本に来る度、成田の入管で、一定期間、足止めされてきた。
 ある時、大学の休み明けに、私は母と一緒に日本に戻った。その時、入管の職員は、私の母が日本に「不法滞在」しようとしているとの容疑をかけた。私は一生懸命、母が滞在期限を越えて日本に残ったことはないと説明したが、母は結局、そのまま帰国させられた。
 それだけではない。入管の職員は、私と母を事務所に連れて行き、私の日本語がうまくないことをバカにして笑った。その職員は、母が強制退去させられると知って泣いた時も、笑ったのだ」

現在、日本で暮らす外国人の数
 現在、日本で暮らす登録外国人は約220万人だ。そのうち66万人(30%)は中国人、59万人(27%)は在日韓国・朝鮮人だ。かれらやその両親、祖父母は、日本が中国や朝鮮に侵攻していた時に、日本に来た人々で、「オールド・カマー」と呼ばれている。第二次大戦中、何十万という朝鮮人が、労働者として日本に連れてこられたのだ。戦後は、日本の急激な経済成長に惹かれて、東南アジア、特にフィリピンから多くの人が出稼ぎに来た。さらに、1990年代には、日本がラテンアメリカから日系人を労働者として招く政策をとったため、ブラジルだけで30万人以上、他にもペルーや他の南米諸国から多くの労働者が日本に来た。

個人的経験から
 私がいつも感じるのは、一般市民の「外国人」労働者に対する態度と、政府が入管やその政策によって示す公式の立場とのギャップだ。特に外国人が困っている時、多くの日本人が示す親切に、たびたび感動するが、入管職員や警察官の外国人に対する態度には、しばしば怒りを禁じ得ない。

<アバヤさん一家のこと>
 今年の3月19日、フィリピンのアラネタ・クバオのアバヤさんという女性から、1通のファックスを受け取った。私は彼女に会ったことはなかったが、そこにはこう書いてあった。

「私はアバヤ一家を代表して、あなたが差し伸べてくださった助けに、心からお礼申し上げます。あなたが下さった肉体的、精神的、感情的、金銭的、そして何より霊的援助がなければ、以下のことは不可能でした」

 その後に書かれていた物語はとても劇的だった。あるフィリピン人の非正規滞在者が病気になり、深刻な肝臓病と診断された。健康保険に入っていない非正規外国人を受け入れる病院はなかった。警察もそんな重病人を逮捕できなかった。警察の名誉のために言うと、彼らはそのフィリピン人を受け入れる病院を探し出した。病院はすぐに人工透析を行い、病状は回復した。患者の男性は、すぐにでもフィリピンの家族のもとに帰りたがったが、病院の治療費はとんでもなく高額な上に、医師は「飛行機に乗ったら生命の保証はできない」と反対した。彼の帰国に必要な書類が大急ぎで作られたが、入管が彼の身柄を要求し、彼は病院のベッドから引き出されて、品川の入管まで車で1時間かけて運ばれた(救急車は高くつくので)。病気にもかかわらず、彼に対する取り調べは、ほぼ丸一日かかった。それはたぶん、通常の法手続なのだろうが、常識からどれだけかけ離れているだろう!
 私がよく知っているベトナム人で、家族と一緒に合法的に日本に住んでいる人が、何日か前に自分の友だちのことを話してくれた。その友だちは、非正規滞在者だが、ベトナムに帰りたがっていた。かれらはその日、入管に行く予定だったが、私の知り合いは、入管への行き方を交番で聞くという間違った行動をとってしまった。彼が言うには、二人の警察官が彼らに飛びかかり、逮捕した。警察官は彼らを交番で取り調べた後、パトカーで綾瀬警察署まで護送し、取り調べはさらに2時間続いた。私の知り合いは、友人の通訳をしなければならなかった。結局、二人は入管への行き方を教えられて、解放された。だが、二人が品川からまだ遠い駅で電車を乗り換えた時、駅にいた二人の警察官が彼らに質問し、非正規滞在のベトナム人に手錠をかけた。私の知人は警察官から、「私たちがあなたの友だちを入管に送り届けるので、あなたは帰宅するように」と言われた。控えめに言っても、やり過ぎだろう。
国連特別報告者の公式調査
 ここで、国連特別報告者(難民移民担当)が最近、日本を公式訪問した件に触れよう。国連特別報告者(難民移民担当)のホルヘ・ブスタマンテ氏が、公式調査のため、3月23日に来日した。彼は移民に聞き取り調査をし、行政関係者とさまざまな問題を話し合った。ブスタマンテ氏は、強制退去命令によって移民の家族が引き裂かれてしまう問題に懸念を示し、日本の状況に関する調査の結果を、今年の暮れに開かれる国連人権委員会に提出して、問題を明らかにすると明言した。ブスタマンテ氏の主な仕事は、移民の人権擁護の障害を解決する方法を、検証することである。
 ブスタマンテ氏は3月31日の記者会見で、日本政府に対して、外国人研修生や技能実習生制度が、現実には低賃金で搾取され、人権を侵害される「奴隷労働」になっているケースも見られるとして、中止して、正規の労働者として雇用する政策に切り替えるよう、強く求めた。

いくつかの提案
 最後に、前国連事務総長コフィ・アナン氏の記事をもう一度、引用したい。

「国家が存在するかぎり、移民も存在する。別のあり方を願うことはできるかもしれないが、それでも移民は厳然たる現実だ。だから、問題は移民をどのように止めるかではなく、それをよりよくコントロールすることであり、各方面がよりよく協力し、理解することだ。移民問題は「ゼロ・サム・ゲーム」(一方が勝ち他方が負けるゲーム)ではなく、すべての人に利益をもたらしうるものなのだ」

 日本のカトリック教会は、この分野に関して、すでに長い経験を持っている。実際、いまや日本のカトリック人口の半分以上が外国人だ。社会司牧通信の読者も、それぞれの在日外国人との体験を分かち合えば、必ずや有益な成果が得られるだろう。私がこの記事を書いた目的は、日本の外国人コミュニティで司牧的世話や教育、生活相談に携わる人々の間に、対話と情報交換を促すことだ。できれば、世論啓発活動をしている人々とも交流したい。移民の問題は日本だけでなく、東アジア全体に深刻な影響を及ぼす問題なのだ。
 他方、イエズス会社会司牧センターとしては、イエズス会員や協働者の皆さんに、移民問題に関心を持って取り組んでもらうために、私にご連絡いただいて、新しいネットワークを創りたい。このネットワークは、それぞれの体験や情報を交換し、日本の移民の状況を改善する方法について話し合う、開かれたネットワークだ。センターへのご提案はもちろん大歓迎だ。皆さんのご協力によって、このネットワークを立ち上げたい。センターからは、移民問題に関する情報や、司牧・教育の方法論などについて、体験と情報を皆さんに提供できる。さらに、イエズス会東アジア地区で設立の最中である、管区を越えた移民に関する組織と、協力する可能性も探りたい。日本で暮らす移民の福利向上のために、多くの皆さんのご参加をお待ちしている。

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